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利尿薬が処方されたら、「尿が増えたか」だけ見ていませんか?
利尿薬が処方されたとき、「尿が増えたかどうか」を確認することは大切です。しかし、利尿薬を使っている人の状態を見るうえで、尿量だけを追っていれば十分というわけではありません。
利尿薬にはいくつかの種類があり、作用する場所や体外へ排泄するもの、使用する目的、注意すべき副作用がそれぞれ異なります。同じ「利尿薬」でも、薬によって観察すべきポイントは変わるのです。
医療・介護の現場では、処方されている薬の名前まで確認することで、「この人は今、何に注意して状態を見ればよいのか」がより具体的に見えてきます。
心不全などでは、心臓の働きが低下することで、体内に水分やナトリウムがたまりやすくなります。その結果、足のむくみや体重増加、息苦しさ、横になると呼吸が苦しくなるといった「うっ血」の症状が現れることがあります。
こうした余分な水分やナトリウムを体外へ排泄し、体液量を調整するために使われるのが利尿薬です。日本循環器学会・日本心不全学会の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」でも、体液貯留を伴う心不全に対して、うっ血の改善を目的とした利尿薬の使用が推奨されています[1]。
ただし、利尿薬はすべて同じように作用するわけではありません。代表的な種類と、それぞれの特徴を見ていきましょう。
フロセミド、アゾセミド、トラセミドなどが代表的な薬です。腎臓の「ヘンレ係蹄」という部分に作用し、ナトリウムなどの再吸収を抑えることで、水分の排泄を促します。
比較的強い利尿作用を持つため、心不全による浮腫やうっ血の改善を目的として広く使用されています。2025年の心不全診療ガイドラインでも、うっ血を伴う心不全治療ではループ利尿薬が基本とされています[1]。
ここで確認したいのは、尿量だけではありません。体重がどう変化しているか、足のむくみや呼吸苦が改善しているか、血圧が下がりすぎていないか、口渇やふらつきがないかなども重要です。
また、水分とともに電解質も失われるため、低ナトリウム血症や低カリウム血症、脱水、腎機能の変化などにも注意が必要です。
つまり、「尿がたくさん出た=順調」とは限りません。必要以上に水分が失われれば、血圧低下や脱水、腎機能の悪化につながる可能性もあります。
ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジドなどがこのグループに含まれます。腎臓の「遠位尿細管」に作用し、ナトリウムと水分の排泄を増やします。
高血圧の治療で使用されることも多い薬ですが、心不全では、ループ利尿薬だけでは十分な利尿が得られない場合に併用されることがあります。作用する場所の異なる利尿薬を組み合わせることで、利尿作用を強めるという考え方です。
一方で、利尿作用が強まれば、低ナトリウム血症や低カリウム血症、血圧低下、脱水などにも注意が必要になります。特に高齢者では、食欲低下や倦怠感、ふらつきなど、一見すると「なんとなく体調が悪い」ように見える変化の背景に、電解質異常が隠れている場合があります。
PMDAの添付文書でも、ヒドロクロロチアジドによる低ナトリウム血症や低カリウム血症への注意が記載されています[2]。
代表的な薬として、スピロノラクトンやエプレレノンがあります。
ほかの利尿薬と大きく異なるのが、カリウムを体内に保持しやすいという特徴です。ループ利尿薬やサイアザイド系ではカリウムが低下することがありますが、MRAでは反対に、高カリウム血症に注意する必要があります。
特に、腎機能が低下している場合や、カリウムを上昇させるほかの薬を使用している場合には、血液検査による確認が重要になります[5]。
さらに、MRAは心不全治療において、単に「尿を出すための薬」というだけではありません。特定の心不全患者では、病状の進行や予後に関わる重要な治療薬として位置づけられています。
そのため、「尿があまり増えていないから効いていない」と判断することはできません。薬が何を目的として処方されているのかを理解することが大切です。
トルバプタンは、バソプレシンV2受容体拮抗薬と呼ばれる薬です。これまで紹介した利尿薬とは作用の仕方が異なり、腎臓での水の再吸収を抑えることで、主に「水」を尿として排泄します。
そのため、「水利尿薬」と呼ばれることもあります。心不全では、ほかの利尿薬で十分な効果が得られない体液貯留などに使用されます[1,3]。
一方で、水分が多く失われることによって、強い口渇や脱水、高ナトリウム血症などを起こす可能性があります。PMDAの添付文書でも、高ナトリウム血症への注意が明記されています[4]。
そのため、トルバプタンを服用している人を見るときは、「尿は出ています」だけで終わらせず、異常に喉が渇いていないか、元気がなくなっていないか、意識状態に変化がないかなども確認することが重要です。
ここまで見てきたように、利尿薬を使用している人の状態を確認するときは、尿量だけではなく、体液量がどう変化しているのかを総合的に見ることが大切です。
たとえば、次のような変化が観察の手がかりになります。
体重
急な体重増加は、体内に水分がたまっているサインとなることがあります。反対に、短期間で大きく体重が減っている場合には、利尿が強すぎないかを考える材料になります。
浮腫
足首や下腿のむくみが増えていないか、左右差はないか、前日と比べてどう変化しているかを確認します。
呼吸状態
歩いたときの息切れが増えていないか、横になると苦しくないか、夜間に息苦しくて起きることがないかなどを見ます。
血圧・脈拍
利尿によって循環血液量が減少すると、血圧が低下することがあります。普段との違いにも目を向けることが重要です。
口渇・倦怠感・ふらつき
脱水や血圧低下、電解質異常などのサインになっている可能性があります。
このように、尿量はあくまで「観察項目の一つ」です。薬の種類と本人の状態を合わせて見ることで、より多くの変化に気づけるようになります。
「利尿薬を飲んでいます」という情報だけでは、その人の状態を十分に理解できないことがあります。そこで一歩踏み込んで、「何という利尿薬ですか?」と確認してみることが、観察の視点を広げるきっかけになります。
たとえば、ループ利尿薬であれば脱水や低カリウム血症、体重・浮腫の変化に注意する。サイアザイド系であれば、低ナトリウム血症や低カリウム血症にも目を向ける。MRAであれば、高カリウム血症や腎機能を確認する。トルバプタンであれば、口渇や脱水、高ナトリウム血症などを意識する、といった具合です。
もちろん、実際の観察項目や対応は、疾患や併用薬、腎機能などによっても異なります。大切なのは、薬の名前を手がかりに「この薬は何のために使われているのか」「どんな変化に注意すべきなのか」を考えることです。
私たち医療・介護職が薬を処方するわけではありません。しかし、「なぜこの薬を飲んでいるのか」を知っておくことで、日々の利用者さんの変化に気づきやすくなります。
「最近、体重が増えている」「足のむくみが強くなっている」「以前より息切れする」「利尿薬が増えてからふらつく」「すごく喉が渇くようになった」。こうした何気ない変化も、病状や薬の作用を考えるための重要な情報になることがあります。
利尿薬が処方されたら、「尿が増えたか」だけを見るのではなく、「何の利尿薬を、何のために使っているのか」に目を向けてみましょう。そして、体重、浮腫、呼吸、血圧、口渇、ふらつき、血液検査などを含めて、その人全体を見ることが大切です。
薬の名前を一つ知るだけでも、日々の観察の視点は変わります。それが、利用者さんの小さな変化を早く拾うことにつながるかもしれません。
[1]日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」
[2]独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
ヒドロクロロチアジド 添付文書
[3]日本循環器学会/日本心不全学会
「バソプレシンV2受容体拮抗薬の適正使用に関するステートメント 第2版」
[4]独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
トルバプタン 添付文書
[5]独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
スピロノラクトン 添付文書
※本記事は利尿薬に関する一般的な医学情報を提供するものであり、個別の薬剤調整や中止を勧めるものではありません。服薬量の変更・中止は自己判断せず、医師・薬剤師へご相談ください。

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