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「失神した」だけでは足りない。危険な心原性失神を見逃さないために
「突然、意識を失って倒れた」。医療や介護の現場では、こうした場面に遭遇することがあります。しばらくすると意識が戻り、本人も普段通りに話していると、「もう大丈夫かな」と思ってしまうかもしれません。
しかし、失神の中には、その背景に重大な心疾患や不整脈が隠れているケースがあります。失神をみたときに、まず見逃したくないものの一つが「心原性失神」です。
大切なのは、「失神した」という事実だけではありません。いつ、どこで、何をしているときに起こったのか。その直前に何があったのか。失神の「前後のストーリー」を丁寧に確認することが、危険な失神を見逃さないための第一歩になります。
失神とは、一時的に脳への血流が低下することで起こる、一過性の意識消失です。日本循環器学会のガイドラインでは、失神を「一過性意識消失をきたし体位の維持ができなくなるもの」とし、その原因を大きく「反射性失神」「起立性低血圧」「心原性失神」の3つに分類しています[1]。
たとえば、長時間立っていたときや、痛み・緊張などをきっかけに、「気分が悪い」「冷や汗が出る」「目の前が暗くなる」といった前兆があり、その後に意識を失う場合には、血管迷走神経性失神などの反射性失神が考えられます。
一方、心臓の構造的な病気や不整脈などによって心拍出量が低下し、脳への血流が一時的に不足して起こるのが心原性失神です。心原性失神では、その背景に重大な循環器疾患が存在する可能性があるため、失神を評価するときには「心原性ではないか」という視点を持つことが重要になります。
日本循環器学会のガイドラインでは、運動時の失神や、動悸・胸部症状が先行する場合、臥位での失神、突然死の家族歴、器質的心疾患や心機能低下などがある場合には、心原性失神を疑うことが重要とされています[1]。
では、具体的にどのような状況に注意すればよいのでしょうか。
歩いているとき、階段を上っているとき、運動しているときなど、身体活動の最中に起こる失神には注意が必要です。
運動すると、筋肉などへより多くの血液を送るため、心臓には通常より大きな働きが求められます。しかし、重度の弁膜症や心筋症、不整脈などがある場合、その需要に心臓が十分に対応できず、脳への血流が低下することがあります。
ここで重要なのが、「運動中に倒れたのか、それとも運動を終えた後に倒れたのか」という違いです。「運動していた」という情報だけで終わらせず、倒れた瞬間までの状況を具体的に確認することが大切です。
一般的な血管迷走神経性失神や起立性低血圧では、立位による血圧低下などが関係することがあります。そのため、「ベッドで横になっていたのに突然意識を失った」といった仰臥位での失神は、心原性失神を疑う一つの所見となります。
日本循環器学会だけでなく、米国のACC/AHA/HRSのガイドラインでも、仰臥位での失神は心臓が原因である可能性が高まる病歴上の特徴として挙げられています[1,2]。
失神の前に「気持ち悪い」「冷や汗が出る」「目の前が暗くなる」といった症状があれば、自分で座ったり横になったりできることがあります。
一方で、「普通に話していたのに突然倒れた」「気づいたら床に倒れていた」というように、前兆がほとんどないまま意識を失った場合には注意が必要です。ACC/AHA/HRSのガイドラインでも、前兆が短い場合や、前兆なく突然意識を失う場合は、心原性失神に関連しやすい病歴として挙げられています[2]。
不整脈によって心拍出量が急激に低下すると、十分な前兆がないまま突然意識を失うことがあります。
失神そのものだけでなく、「失神する直前に何が起こっていたのか」を確認することも非常に重要です。
特に、胸の痛みや圧迫感、動悸、突然心臓が速く打つような感覚、呼吸困難や息苦しさなどを伴っていた場合には、循環器系の異常を考える必要があります。日本循環器学会のガイドラインでも、運動時の失神に加えて「動悸あるいは胸部症状が先行する場合」は、心原性失神を疑うポイントとされています[1]。
「失神しました」だけではなく、「失神する10秒前、1分前に何が起きていたのか」まで確認することが、原因を考える重要な手掛かりになります。
これまでの病歴も重要です。たとえば、心筋梗塞、心不全、心筋症、弁膜症、不整脈、その他の器質的心疾患などを指摘されている方が失神した場合には、より慎重な評価が必要です。
ACC/AHA/HRSのガイドラインでも、既知の虚血性心疾患、構造的心疾患、不整脈、心機能低下などは、心原性失神と関連しやすい病歴上の特徴として整理されています[2]。
特に高齢者では複数の疾患を持っていることも多いため、「何の病気がありますか?」だけではなく、「心臓の病気を指摘されたことはありますか?」と具体的に確認することも大切です。
本人の病歴だけではありません。失神を評価するときには、「家族や親族に若くして突然亡くなった人はいないか」という家族歴も重要です。
遺伝性の不整脈疾患や心筋症などの中には、若年での突然死につながる疾患があります。そのため、「父親が40代で突然亡くなった」「兄弟が運動中に突然亡くなった」「若くして原因不明の突然死をした親族がいる」といった情報が、診断を考える大きな手掛かりになることがあります。
日本循環器学会、ACC/AHA/HRS、ESCのいずれのガイドラインにおいても、突然死の家族歴は心原性失神を疑う重要な情報として扱われています[1-3]。
医療・介護の現場で失神が起きたとき、「利用者さんが失神しました」という報告だけでは、原因を考えるための情報としては十分ではありません。
できるだけ、次のような情報を整理しておくことが重要です。
いつ起こったのか
何をしているときだったのか
立位・座位・臥位のどの姿勢だったのか
運動中だったのか
失神する前に、吐き気・冷や汗・胸痛・動悸・息苦しさなどはなかったか
突然倒れたのか、前兆があったのか
どのくらい意識を失っていたのか
意識はどのように回復したのか
過去にも同じような失神があったか
心疾患の既往はあるか
どのような薬を服用しているか
若年突然死の家族歴はないか
本人が覚えていない場合には、周囲にいた人から話を聞くことも非常に重要です。日本循環器学会のガイドラインでも、失神の診断では目撃者からの情報が参考になるとされています[1]。
失神の原因を、その場で医療・介護職が確定することはできません。しかし、必要な情報を拾い上げることはできます。
「いつ」「どこで」「どんな姿勢で」「何をしていて」「何の前触れがあって」「どのように倒れたのか」。こうした情報を整理して医師へつなぐことで、その後の診断や検査につながる可能性があります。
特に、労作中の失神、臥位での失神、前兆がほとんどない突然の失神、胸痛・動悸・呼吸困難を伴う失神、心疾患の既往、若年での突然死の家族歴がある場合には、心原性失神の可能性を念頭に置き、医療機関での評価につなげることが重要です。
また、意識が回復しない、胸痛や強い呼吸困難が続く、重い外傷を伴うなど、緊急性が疑われる場合には、救急要請を含めた対応が必要です。
失神は「病名」ではなく、症状です。だからこそ、「失神した」という結果だけを見るのではなく、その前後に何が起こっていたのかを丁寧に拾っていくことが重要です。
たった数分の問診でも、「運動中だった」「直前に動悸があった」「実は心筋梗塞の既往がある」「兄が若くして突然亡くなっている」といった重要な情報が見つかることがあります。
いつ、どこで、何をしていて、何の前触れがあったのか。失神の前後にある「ストーリー」を見ることが、危険な心原性失神を見逃さないための第一歩です。
[1]日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン
「2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」
[2]Shen WK, Sheldon RS, Benditt DG, et al.
2017 ACC/AHA/HRS Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope. Circulation. 2017;136.
[3]Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al.
2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. European Heart Journal. 2018;39:1883-1948.
※本記事は失神に関する一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療を目的としたものではありません。症状がある場合や緊急性が疑われる場合は、医療機関への受診・救急要請をご検討ください。

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